ラビット・ホール

悲しみ方は人それぞれ、何によって慰められるかも人それぞれ。
けれど、愛する人を失ったつらさと、それでも前を向かなくちゃならないのは皆同じ。そこには時間が平等に働いて、悲しみをポケットの小石に変えてくれるという。

夫婦仲にしても、加害少年に対する夫婦の気持ちとしても、こうあってほしいと願ったとおりになって、美しさが沁みてくる。
キャストがいいし(理想の夫!少年の驚くべき深い瞳!)、脚本も構成といいセリフといい完璧だ。脚本については、犬だけを取りだしてみても凄い。ファーストシーンで空っぽの犬小屋がチラリと映される。その後、ベッカ(ニコール・キッドマン)が実家に帰ったとき犬に吠えられる。餌を与えに来たオーギーが「預かっているんだけど、バカ犬でスミマセン」と言うと、ベッカが「うちが預けた犬で、スミマセン」(笑)。こうして笑いを取ったかと思えば、夫婦げんかの場面で、ハウイー(アーロン・エッカート)は、子どもが亡くなった遠因が犬にあると思ったから預けたのだと訴える。ケンカの末、犬を取り戻してきたハウイーは散歩に出て、犬を叱り飛ばしたことをきっかけに(自分でもそれほど怒るつもりはなかったのだろう。また、ベッカとの間が思いどおりにいかないことや、亡くした息子のことなどが頭を離れないのだろう)、犬を抱きしめて泣き崩れる(涙)。

原作は舞台劇だというが、それがまったく想像すらできないくらい映画的美しさに満ちた作品で、どの場面も印象に残る。プロローグのためらいなく引かれる一本の線から始まり、クライマックスの無音スローモーション(ジェイソンとベッカ)を経て、夫婦二人だけの哀しくも穏やかな黄昏時まで。ジョン・キャメロン・ミッチェル監督。今度は名前を覚えておきたい。

ナット(ダイアン・ウィースト)/イジー(タミー・ブランチャード)/ジェイソン(マイルズ・テラー)

RABBIT HOLE
監督:ジョン・キャメロン・ミッチェル
(シネマ・サンライズ 2012/04/20 高知県立美術館ホール)

バトルシップ

はははははははは、ははははははは!
は~あ。ふぅ~(あほらし)。(^m^)

まったく好みではないが、アレックス・ホッパー役のテイラー・キッチュは、主役を張るだけあってチャーミングで比較的背が低いところも可愛く思えてなかなかよかったし、ナガタ(浅野忠信)とか提督(リーアム・ニーソン)とか有名どころの俳優も出演しているし、全体のコメディ的乗りもよかったし、宇宙人の造形も気に入ったし、世界中がメチャクチャにされるのも面白く、わけのわからん敬老精神の発揮も肯定的に楽しんだけれど、演出にキレがないのが映画をつまらなくしている(と思う)。
冒頭、アレックスが一目惚れの彼女のためにコンビニにチキンフリットを買いに行く場面などモタモタしすぎなのだ。どうして、サクサクッと1、2分でまとめないのか。だけど、この初っ端のもっさり具合のお陰で、そういうゆるい演出で行くのねと、こちらもギアチェンジできたのでよかったのかもしれない。

BATTLESHIP
監督:ピーター・バーグ
(2012/04/20 TOHOシネマズ高知5)

アーティスト

『ヒューゴの不思議な発明』はワクワクして大変面白く大好きなのに、『アーティスト』はつまらないわけではないが大した感慨もなかった。どちらも過去の映画に対して敬意と愛情があるのだろうに、『アーティスト』については私はそれが感じ取れなかったということか。
『アーティスト』は、思ったとおりの展開で話に面白みがあるわけではない。だから、モノクロ無声のシーンの情感が大切なのだが、ペピー・ミラー(ベレニス・ベジョ)とジョージ・ヴァレンティン(ジャン・デュジャルダン)のやりとりの良いシーンは(初共演のときと階段ですれ違うシーン以外)全部予告編で見ている。(予告編では本当に感動した。)

この映画は無声映画の様相を呈しながら、二カ所で音を付けている。初めはジョージの夢。トーキーへの変換期の俳優の不安と精神的圧迫が上手く描かれているとは思うが、私には心臓に悪い音響だった(最初のコップの音だけでなく、覚悟していたはずの羽の着地音もダメだった)。
そして、ラストシーン。ペピーとジョージの二人いっしょの出発を、映画が音を得た新たな幕開けと重ね合わせたかのようなシーンだった。だけど、映画はその後、次々と技術的な革新を経ているのだ。「今」にどうつなげるのだろう。そんなことを思いながら観ていたので、「今」につながったように思えなかった『アーティスト』は懐古趣味だと片づけてしまった。

アル・ジマー(ジョン・グッドマン)/クリフト(ジェームズ・クロムウェルン)
※午前十時の映画祭のときからの疑問が解けた。TOHOシネマズ高知はスタンダードに対応したスクリーンがない。

THE ARTIST
監督:ミシェル・アザナヴィシウス
(2012/04/10 TOHOシネマズ高知5)

ヘルプ~心がつなぐストーリー~

感動した~。
コンスタンティン(シシリー・タイソン)の表情を思い出すと涙が出そうになる。
少女時代のスキーター(エマ・ストーン)に柳の木の下で教え諭すときと、解雇されて去るときスキーターの背丈を測った柱の傷をながめる表情。はぁ~(涙)。コンスタンティンは、当の昔からスキーターの母シャーロット(アリソン・ジャネイ)は、自分を持たず流される人とわかっていたので、解雇されたことを恨みはしなかったと思うけれど、我が子のように思っていたスキーターに会わずじまいはとても悲しかったと思う。
というわけで、黒人女性のお手伝いさんが、白人の子どもを育ててきたという、黒人差別について新たな視点の物語をコメディに仕立てているうえ、一人息子を亡くしたエイビリーン(ヴィオラ・デイヴィス)、暴力夫に耐えるミニー(オクタヴィア・スペンサー)、流産経験のあるシーリア(ジェシカ・チャステイン)と女性の連帯映画にもなっていてとても面白かった。コメディの立役者、ヒリー(ブライス・ダラス・ハワード)とミセス・ウォルターズ(シシー・スペイセク)にも拍手。

THE HELP
監督:テイト・テイラー
(2012/03/31 TOHOシネマズ高知5)