「東郷平八郎と山本五十六と、どっちがどっちだっけ?」というくらいの認識で恥をかくでもなく何の支障もなしに暮らしてきたけれど、今回、五十六がどんな人物かわかって、知的好奇心が満たされた分嬉しい。もちろん、作り手の目を通した五十六(役所広司)像なので、実像や歴史的評価とは異なっているかもしれないが、この五十六像でいくと、なかなかたいした人物のようだ。甘党で将棋が好きで、先人・歴史に学び教養があり視野が広い。何より国を守るとはどういうことかを考え抜いていた。だから戦争には反対し、先のことを考え若者を大事にした。「軍人は戦争をしたがる」という私の偏見は改めなくてはならない。何もかも思いどおりにならないなかで、動かざること山の如しみたいな大将ぶりと、家庭人としては滲み出る愛情の深さ、大敗を喫した部下に茶漬けをすすめたり、甘味処の女の子にリボンを贈る繊細さが(ほんまかいなと思いつつも)、タイトルロールとして充分な魅力を発揮していたように思う。
そのほか、海軍と陸軍が意見を異にしていたこと、海軍の中でも薩摩や長州出身者とそれ以外みたいな心理的隔たりがあったことなども面白かったけれど、五十六の人物像に織り込んで、もっと大事なことが描かれていたと思う。それは当時の民衆が戦争ウェルカムだったことと、そういう世論を作ったのはマスコミだろうということだ。(数年前、北朝鮮がロケット実験だと言って飛ばしたものを、日本ではミサイル攻撃の予行であるかのような雰囲気で報道されたことがあり、そのときの騒ぎようを見ていて、こうして戦争になるんだなと実感したことがあった。)そんなわけで、マスコミの報道には要注意だ。福島第一原発事故後の報道でも、大本営発表をそのまま伝えた昔と変わりない部分があるのではないだろうか。真藤記者(玉木宏)に対して、よく観てよく聴き、心で感じろという五十六の助言は、真珠湾奇襲から70年経った今も変わらず真実だと思った。
米内光政(柄本明)
井上成美(柳葉敏郎)
山口多聞(阿部寛)
監督:成島出
(2011/12/23 TOHOシネマズ高知5)