朝が来る

観てよかった。
と言うのは、河瀬直美監督作品は相性がよろしくないし、「子どもを返してください」という予告編を見て『八月の蝉』とか『そして、父になる』のような子どもをさらうとか血のつながりがどうのこうのとかは、もう充分な気がしていて迷ったあげく観てみると、原作がある作品だったので河瀬直美臭は薄められ、「子どもを返してください」というのは養子に出した若い母親のSOSだったことがわかり、涙ものの感動作だったからだ。
「女はつらいよ」がベースとしてあり、そのうえに特別養子縁組や養子に出す親の事情などのちょっとした啓発的側面があり、ど真ん中は子どもを鎹とした血縁の親と養母の理想的な繋がりの始まりをサスペンスフルに描いた作品だと思う。

栗原清和(井浦新)を無精子症の設定にしたのは、これまで不妊の原因が女性にあると思われがちだったからだと思う。近年は男性にも原因があると一般に浸透していると思うけれど、治療方法の一端をこの作品で知らせてもらって、男性側もつらいのだな~と思った。
特別養子縁組の条件は、一つを除いて子どものために当然のことで条件となっていることに安心した。納得がいかなかったのは、養子を授かる方の両親のどちらか一人が育児に専念できることというものだ。この条件は多分法的な根拠はなくて浅見さん(浅田美代子)が主宰するNPOだけの条件ではないだろうか。条件を満たすために栗原佐都子(永作博美)は退職する。性別役割に固定観念がない夫婦であっても、性差別によって賃金の低い女性の方が退職することになるんだろうと思いながら観ていた。

養子に出す親の事情は様々だと思うが、片倉ひかり(蒔田彩珠)は中学生という最も弱い立場だ。甘酸っぱい告白シーンから林の中のラブシーンまで、ひかりのことを本当に好きだった麻生巧(田中偉登)も妊娠を機に離れてしまった。彼は早々とミサンガを外したんだろうなぁ。彼を責める気にはなれないが、性教育を推進しない教育委員会を責める。トイレの個室で産んで捨てるなんてことのないように、様々な相談先も男女ともに教えてほしい。両親は本人の気持ちを聴く耳持たずで保護者でありながら子どもを保護しない(保護しているつもりだとは思う)ため、ひかりは居場所をなくしてしまう。出産から養子縁組まで面倒をみてくれた浅見さんを頼って広島へ行くのは無理もない。
髪を染めて屈託を抱えるようになっても、ひかりは真っ直ぐで強くて優しい、いい子だ。新聞販売店の店主もいい人だった。同じ販売店で働いて同居していた友だちも(無断でひかりを保証人にするが)悪い人ではない。ここでは、金の切れ目が縁の切れ目を通り越して命の切れ目にまで来てしまった今の社会を意識させられる作りになっている。

佐都子は二度肝が冷えた。一度目は朝斗(佐藤令旺)が幼稚園で友だちをジャングルジムから突き落としたと言われ、やってないと言う息子を信じ切れないのだが、息子に対しては信じている振りをする。怪我をした子どもの親の圧がすごい(^_^;。朝斗は「僕がやったって言った方がよかった?」と母にたずねるまでになってしまう。たずねられてどう応えたかまでは描かれてないが、結局、相手の子どもの嘘だったとわかり、それを聴いたときの佐都子の驚きの表情がホラー(笑)。朝斗にたずねられたとき、「本当のことを言えばいいんだよ。嘘はいけないんだよ。」くらいの応えはしていたんだろう。対応としては「セーフ」、信じ切れなかったことに冷や汗だったろう。

二度目は「子どもを返してください」とやってきたひかりを夫とともに「あなたは、あの人(母親)じゃない」と言って追い返してしまった後のこと。広島でひかりから預かった子ども宛の手紙を読み返して「なかったことにしないで」(←特別養子縁組についての作り手の作意を感じる。)という言葉を発見する。そこでハッ(ひやり)とする。ひかりは妊娠中にちゃんと親になっていたのだなぁ。警察がひかりを探していると知って窮状を察し、ひかりを見つけてセーフ(ToT)。朝斗にも広島のお母さんと紹介して、まことに「朝が来る」であった。
(2020/10/26 TOHOシネマズ高知3)

スパイの妻

フィクションなんだけれど史実をブレンドして上手く時代背景を作っていると思う。
見所は、優作(高橋一生)、カッコイイー!聡子(蒼井優)、いろっぽい可愛いー!啖呵も可愛いのじゃ(^_^)。夫を愛するあまり他の者を犠牲にすることをいとわないのでゾッとしたけど。二人の住まい(神戸らしく洋館)や洋服も見所。昭和初期らしい町の雰囲気など丁寧な作り込み。

残念なのは話や細部の詰めが甘いこと。機密文書を妻の目の前で金庫にしまう?深読みさせられた。また、空襲シーンから浜辺への場面展開はちょっと拍子抜け。
お互い愛しあっており、相手の命を救うため騙し合うという展開を詰めた方が、娯楽映画としてスッキリしたと思う。皆が狂っていると正常な者が狂っていることになると厭戦的なセリフを聡子に言わせることによって、娯楽の比重を軽くした感じ。
『ムーラン・ルージュ』を観たときはボヘミア~ンっていいなぁと思ったものだったが、『スパイの妻』ではコスモポリタ~ンもカッコいいなと思った。
(2020/10/21 TOHOシネマズ高知3)

淪落の人

感動ー。
淪落って落ちぶれることだって。
エヴリン(クリセル・コンサンジ)の向上心、働きぶり。
チョンウィン(アンソニー・ウォン)の親切、妄想(切ない)。
ファイ(サム・リー)の恩返し。
フィリピンのメイドたちのたくましさ。
好交流。肉親じゃなくても。
泣きながら元気になれる。
(2020/10/12 ゴトゴトシネマ メフィストフェレス2階シアター)

星の子

とても好きな作品だ。(もう一度見に行こうか迷っている。)
思春期真っ只中のちひろ(芦田愛菜)が、宗教を盲信している両親(原田知世、永瀬正敏)から離れることができるかどうかというお話。伯父さん(大友康平)は両親の目を覚まさせようとするし、姉(蒔田彩珠)は早々と家を出て独立。それでも、ちひろに疑心が生じることはなかったが、一目惚れしたイケメン先生(岡田将生)に両親を不審者と間違われ、ようやくちひろも両親と信心に疑問を持つ。

脚本も撮影も美術もとてもいい。演出も手堅い。無理無駄ムラがない。
ちひろが小学生の頃は新築の家に住んでいたが、中学三年生となった今は古い平屋になっている。飲んでいると風邪も引かないという命の水を買うのに、大分お金をつぎ込んだのだと思う。ちひろの成長ぶりが独白ではなく、回想シーンからわかるようになっている。家出した姉が一旦帰宅したとき、無邪気だったちひろはその時の姉の気持ちがわからなかったが、回想している今のちひろは少しわかるようになっているというふうに。

結局、「信じる者は救われん」。周りでやきもきしている伯父さんや、信じるに値しないと気づき、いっしょに住めなくなった姉は別の幸せを見つけなければならない。私は伯父さんと同じで、怪しい宗教に凝り固まると幸せにはなれないと思っていた。でも、ちひろは両親といっしょにいて幸せなのだ。肩を寄せ合って同じ方を見ている親子の様子に、こういう幸せもアリなのかと思わされた。父が寒さでくしゃみをしても(例え風邪を引いたことがあっても)、「風邪を引いたことがない」と言い切れる思考停止ぶりでも当人が幸せならいいではないか。ただし、かなり閉じられた世界での幸せだと思う。
教団の集会にいっしょに参加した同級生(赤澤巴菜乃)の彼氏は同じ方を見ていけるのだろうか。彼氏と同じ方へ向かうため、彼女の方が教団を脱するかもしれない。(教団の幹部を演じた黒木華と高良健吾が嵌まってた(^m^)。)

姉と異なりちひろが幸運(?)だったのは、幼なじみの親友(新音)が寛容で伯父さんや私みたいな偏見を持っていなかったことだ。命の水の怪しさも両親の奇異な行動も揶揄されることなく、世間とは異なるということを淡々と教えてくれて、イケメン先生にこっぴどい仕打ちを受けたときもカッコよく慰めてくれる。この親友の彼氏(田村飛呂人)もサイコーで、ちひろの涙のシーンで私は爆笑してしまった。この二人のような人間になりたいものだ。二人はちひろの窓だと思う。閉じられた世界に居続けるのは、やっぱり弊害があると思うので。宗教だけに限らないけど。

セリフのうえで美少年エドワード・ファーロングが登場したので、なつかしくなって検索したら、眼差しは相変わらず不健康そうだけど予想を上回る変貌ぶりだった。それでも元祖隈王子は不動なり。
(2020/10/14 TOHOシネマズ高知7)