エドワード・バーン=ジョーンズ展

重陽の日、奈良を早々に切り上げ、三宮で3時間のお買い物タイム(友人)。私はネットカフェにでも行くか~と思っていたが、駅の柱広告にバーン!とバーン=ジョーンズ展が。案内所で聞くと兵庫県立美術館までは20分くらいで行けるというので阪神電車で行ってきた。

ほぼ美形、メタボ体形皆無。弛緩と恍惚というと大げさだけど、血と汗と涙とは無縁の気持ちよさげな表情の人々が物語を演じている。さらさらと気軽に美しいものを観た~という感じでなかなかよかった。やはり、ピグマリオン、ペルセウス、いばら姫、アーサー王あたりが洗練されていて印象に残る。

大学時代に出会ったウィリアム・モリスとは生涯にわたって親交があり、バーン=ジョーンズはモリス商会のデザイナーをしたり、モリスの著書の挿絵を担当したりしていたそうだ。モリスはもちろん、その他の著作で、バーン=ジョーンズが挿絵を担当した書籍の展示もあった。

本人はマンガチックな自画像しか残していないが、ジョージ・フレデリック・ワッツ作の肖像画が展示されていて、バーン=ジョーンズって彼の絵のイメージを損なわない線の細い感じの男前と思った。

珍しいと思ったのは、バーン=ジョーンズが原画(1890年)を描きモリス商会が制作したタペストリ「東宝の三博士の礼拝」(1894年、258×384、、マンチェスター・メトロポリタン大学所蔵)。大きくてとても綺麗だった。

ジョン・エヴァレット・ミレーとの見分け方がイマイチわからないけれど、ミレーは画質がより輝いていて、登場人物にも表情があるかな?簡単な見分け方があれば教えてください。

瀕死の探偵

ワトソンはホームズに本当にひどい目にあわされていると思う。ハドソンさんにホームズが死にかけていると言われてベイカー街に駆けつけ、げっそり衰弱し精神錯乱まで起こしているホームズの様子に胸を痛める姿が気の毒だ。気の毒ではあるが、この一編に漂うそこはかとない可笑しさが、初めて読んだ小学生の頃から大好きだった。推理小説としてはイマイチなんだろうけど、ワトソンの誠実さやホームズのケレンがいっぱいで面白い。

それにしてもホームズは大した役者だ。「ボヘミアの醜聞」でワトソンは書いていたのだった。

彼が犯罪の専門家になったことにより、科学界は鋭敏な理論家を失い、同時に演劇界もまた、優れた俳優を失ったのである。(東京図書、シャーロック・ホームズ全集第5巻P156、日暮雅通訳)

シャーロッキアンの研究によるとアメリカで俳優修業をしていた時期があるとのことだ。

[追記]
なんと、Weblio辞書に例文として載っていた。
The stage lost a fine actor, even as science lost an acute reasoner, when he became a specialist in crime.

ボヘミアの醜聞

「あの女」アイリーン・アドラーに出し抜かれ、国王と彼女のツーショット写真を取り戻すことに失敗。だが、アイリーンが写真はお守りとして持っておくにとどめると約束したので、国王は写真は焼き捨てたも同然だとホームズの仕事に満足し、一件落着。どんな褒美でもとらすという国王に、ホームズはアイリーンのブロマイドを所望。かつて女の知恵を嘲笑していたホームズだったが、以後、笑うことがなくなったというオチ(^o^)。

コメディ仕立ての短編で、ボヘミア国王との掛け合いは間がよくて漫才みたい。
ホームズの変装2回、アイリーン1回。ワトソンも「火事だー!!!」と叫ぶ役回りがあてがわれる。
活劇の要素もあって、ゴドフリー・ノートン(アイリーンの恋人)が辻馬車に飛び乗り「セント・モニカ教会へ!20分で行けたら半ギニーやるぞ!」。つづいて、アイリーンが馭者に「セント・モニカ教会よ!20分以内に着けたら半ゾウリンあげるわ!」。更に追いかけるホームズが「セント・モニカ教会へやってくれ。20分以内に着けたら半ゾウリン!」てな調子で、教会に着いたらホームズは二人の結婚式の立会人を引き受ける羽目になるのだ(^Q^)。

話の導入部も素敵で、この頃ワトソンは結婚していて、往診の帰りにベイカー街を通りがかり、窓に映ったホームズの影をみて会いたくなる。

ホームズの態度は割合そっけないものだった。めったに感情を表にあらわさないのだ。だがそれでも、私に会って喜んでくれているのはわかった。ほとんど口もきかなかったが、やさしい目付で、肘掛椅子にかけるようにと手で合図すると、葉巻きのケースを投げてよこし、酒の台やガソジンが部屋の隅にあると指でさし示した。そして、暖炉の前に立つと、例の妙に内省的な表情でじっと私を見つめた。(東京図書、シャーロック・ホームズ全集第5巻P122、日暮雅通訳)

ここまで読むといい雰囲気なのに、後の会話がまた笑えるのである。

最後に肝心な話。
写真まで所望した初めての女性であるからして、彼女に対して恋愛感情があったかどうか常に問題とされるところだが、写真を受け取った後の態度は、プライドずたずた、悔しくてたまらん、というふうに私には読める。そんな相手の顔も見たくないとはならずに写真がほしいとは、ホームズ、マゾか(笑)。まあ、「マスグレイヴ家の儀式」でも記念品をブリキ箱から取りだしていた彼のことだ。ブリキ箱には他の事件の記念品も保管されていることだろうし、ホームズは記念品コレクターなんだろう(?)。なんか可愛い(^m^)。

ライゲイトの地主

ホームズが過労のためリヨンで倒れ、その知らせの電報から24時間のうちにワトソンは病床に駆けつけた。「ヨーロッパが彼の名声で沸き返り、部屋は祝電の山で文字通りくるぶしまで埋まりそうだというのに暗い抑鬱状態に落ちこんでいた。」いや~、ホームズ、働いてるわ~。

ふたりは一旦ベイカー街に帰ったけれど、すぐにサリー州のライゲイトへ療養しに行くことになった。もちろん、医者であるワトソンの勧めだ。ところが、事件がホームズを呼ぶのかホームズが事件を呼ぶのか、ワトソンのにらみ(願い)も利かず、ホームズは殺人事件の捜査に乗り出すことになる。地元の警察にも頼られるし、本人も嫌いじゃないからして(笑)。

それで療養に来ているのをいいことに仮病をよそおったり、ガッシャーンとテーブルをひっくり返してワトソンのせいにしたり(仮病に騙されたワトソンもそのへんは心得ていて自分でテーブルをもとにもどしたり)で、事件はスッキリ解決。「ワトソン君、田舎での静養は大成功だったよ。ぼくは明日には、大いに元気になってベイカー街へ戻れるだろう」という落ち(笑)。
冒頭の抑鬱状態は、大きな事件を解決して「次」がなかったからという気がする(^_^;。これでは、ヒマすぎるとき、コカインをやりたくなるのも無理はないか。
(題名は「ライゲートの大地主」という訳が威勢がよくてよかったなぁ。)